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CRAFT LETTER | クラフトレター

ものづくりのまち・燕の中心的存在。玉川堂が生み出す“鎚起銅器”の美しさとは

APR. 14

TSUBAME, NIIGATA

前略、時を重ねるごとに、少しずつ “美しさが育つ” 伝統工芸品に出会いたいアナタへ

“モノづくりのまち” として世界有数の金属加工産地である新潟県・燕市。

この地に“鎚起銅器(ついきどうき)”と呼ばれる伝統工芸品を、200年以上作り続けている工房がある。創業1816年、これまで300人以上の鎚起職人を輩出してきた、燕の中心的存在でもある「玉川堂(ぎょくせんどう)」だ。

新潟県の無形文化財にも指定された“鎚起銅器”は、使えば使うほど艶や味わいが増す“生きた器”とも表現されるほど。

今回は、そんな新潟県燕市の金属加工産業のルーツ「玉川堂」で、器作りに邁進する若き職人・矢竹純氏にお話をお伺いしました。

矢竹 純(Jun Yatake)氏 / 1992年東京都生まれ。広島市立大学芸術学部卒業後、玉川堂に入社。職人歴5年目。玉川堂の仕事以外でもグループ展を開催するなど積極的に金工作品を作り出している。
矢竹 純(Jun Yatake)氏 / 1992年東京都生まれ。広島市立大学芸術学部卒業後、「玉川堂」に入社。職人歴5年目。「玉川堂」の仕事以外でもグループ展を開催するなど積極的に金工作品を作り出している。

「玉川堂」がつくりだす無形文化財“鎚起銅器”

「玉川堂」のコーポレートスローガンは、「打つ。時を打つ。」

銅板を “鎚(つち)” で打ち “起” こし、味わい深い茶器や酒器を作り出す “鎚起銅器(ついきどうき)” の工房では、常に銅を叩く音がこだまし、職人の手元で徐々に、一枚の銅板が器の形へと変化していく。

一枚の銅板から「急須」が出来上がっていくまでの工程。1番手前の銅板から急須を徐々に形作っていく。銅を叩いて伸ばすのではなく、叩きながら縮めていく。寸法は全て職人の頭の中にあり、どのくらい縮めて丸めるのかは、職人の腕の見せどころだという。
一枚の銅板から“急須”が出来上がっていくまでの工程。1番手前の銅板から急須を徐々に形作っていく。銅を叩いて伸ばすのではなく、叩きながら縮めていく。寸法は全て職人の頭の中にあり、どのくらい縮めて丸めるのかは、職人の腕の見せどころだという。
作品を縮めたり、丸めたりする時に使用する道具「写真左:鳥口(鉄棒)」と「写真右:金鎚」。職人たちは1つの作品をつくる過程で、工房に200種類以上ある鳥口と、300種類以上ある金鎚から数十種類を使い分けているというから驚く。
作品を縮めたり、丸めたりする時に使用する道具“写真左:鳥口(鉄棒)”と“写真右:金鎚”。職人たちは1つの作品をつくる過程で、工房に200種類以上ある鳥口と、300種類以上ある金鎚から数十種類を使い分けているというから驚く。

作品によっては制作に1ヶ月かかることもあり、ひとつひとつ手作業で作られるそれはまさに職人の魂がこもった一点もの。

最初から最後まで同じ職人が手がけるからこそ、同じ用途の作品であったとしても、工房や職人ごとに形状や色合いに特色が現れることが魅力の一つといえる。

自分流のやり方・道具を探す、無ければ“新しくつくる”の繰り返し

「昔から何かをつくることが好きだったんです」と笑顔で話してくれたのは、「玉川堂」に2015年から入ったという若き職人・矢竹氏。

「玉川堂」には、毎年50人を超える学生から就職の応募があり、採用されるのはわずか1人。とはいえ、毎年新卒を採用し続ける「玉川堂」のようなところは少ないという。

「先輩たちも本当に優しく教えてくださいます。むしろ、先輩の方から積極的に教えに来てくれることも多くて、あたたかい職場ですね」(矢竹氏)

とはいえ、同じ工房であっても手がける職人によって、作品の形状や色合いに特色が生まれる“鎚起銅器”。先輩からの技術はどうやって盗んでいくのだろうか。

「職人ごとに生み出す味わいが違うからこそ、必ずといった正解がないんです。職人ごとにやり方も教え方も違います。人によって手の大きさも力も違うからこそ、数百種類の道具の使い分けも全然違うんですよ。だから、新人職人は、“自分流” を見つけていくことが大事で、先輩たちも “あくまでも自分はこうやっているけど、自分のやりやすい方法でやりな” と伝えてくれます」(矢竹氏)

自分に合った道具がない時には、自らつくるということも当たり前で、「玉川堂」には200種類ほどあると聞いていた鳥口も、倉庫に眠っている分を含めたら200をゆうに超えるという。

工房の様子。座る姿勢ですら、それぞれがやりやすい体制を取って行うため、ケヤキの木で出来た上がり盤の上に座る職人もいれば、畳の上に座る職人もいる。
工房の様子。座る姿勢ですら、それぞれがやりやすい体制を取って行うため、ケヤキの木で出来た上がり盤の上に座る職人もいれば、畳の上に座る職人もいる。

職人たちがどれだけの手間暇をかけて、一つひとつの作品を作っているのかを見てもらいたいという想いから、積極的に工房見学を受け入れている「玉川堂」。

十人十色の世界だからこそ、接しやすい職人たちと身近に話をしながら世界でたった一つのオリジナルお猪口が出来上がる体験は、多くのお客様が喜んでくれるという。 

鎚起銅器づくり体験の際に参加者が作れる「お猪口」が出来上がる工程。1番手前の銅板からお猪口を徐々に形作っていく。鎚起銅器は金槌で叩いて、その模様をつくりだすが、金槌の当たった部分が一直線に均一になってしまうと、機械的で美しくないため、あえて職人たちは当てる部分をズラして美しい模様を生み出しているのだそう。「叩くときは力を “抜く” ことが大切で、私もこの作業が苦手なんですが、うまく金槌が銅に当たった時の気持ち良さをぜひ体感してみてほしいです」と(矢竹氏)は話す。
“鎚起銅器”づくり体験の際に参加者が作れる“お猪口”が出来上がる工程。1番手前の銅板からお猪口を徐々に形作っていく。“鎚起銅器”は金槌で叩いて、その模様をつくりだすが、金槌の当たった部分が一直線に均一になってしまうと、機械的で美しくないため、あえて職人たちは当てる部分をズラして美しい模様を生み出しているのだそう。「叩くときは力を “抜く” ことが大切で、私もこの作業が苦手なんですが、うまく金槌が銅に当たった時の気持ち良さをぜひ体感してみてほしいです」と(矢竹氏)は話す。

“美しさ”とは、使い手によって生み出される“味わい”

「玉川堂」に訪れる前に、何度、「玉川堂」のプロモーション動画をみたことだろう。とにかく素敵なこの動画を、まずはアナタにもみていただきたい。

ほんとうの美しさってなんだろう?

この一言から始まり、“美しさ” というキーワードとともに、「玉川堂」の“鎚起銅器”づくりを紹介するこの動画。矢竹氏にとって“鎚起銅器”の “美しさ” は何かを聞いてみた。

「鎚起銅器って、出来上がってすぐのものも綺麗なんですが、それを大事に大事に使っていくと、何とも言えない良い色になって、本当に美しいんですよ。たまに、修理に戻ってくる作品があって、一目で大事に使われていたことがよくわかります。あの味わいは、僕たち職人でも出すことができません。あの味わいこそ、私は “一番美しい” と思っています」(矢竹氏)

使い込めば使い込むほどに味わいが生み出されるという“鎚起銅器”。お客さんの中には、あえて使い込まれた方を売ってほしいと懇願する人までいるそうだ。

「私が作った作品はまだ月日が浅いので、修理に戻ってくることはありませんが、先輩方の作品が修理で戻ってくると、“あ、これ自分が作ったものだ” って先輩が言うんですよ。その時の表情が本当に嬉しそうで。自分が作ったものが、本当に大切に使われて戻ってくる。僕もそんな愛される作品が作れるようにと日々作品に向き合っています」(矢竹氏)

動画の最後に表示される「玉川堂」からのメッセージ。

“ 職人の手を離れ、器は長い長い時を歩んでいく。ほんとうの美しさは、未来の中にある。打つ、時を打つ。” 

時の流れとともに美しさを増し、お客さんの人生に彩りを与えていく「玉川堂」の“鎚起銅器”は、職人とお客さんが共同で作り出す作品なのかもしれない。

“鎚起銅器”の伝統的な技術を直接肌で感じたいと思ったアナタへ。

CRAFT LETTERでは、新潟・“鎚起銅器”の産地にある工房で、あなたのためだけの時間を「玉川堂」の職人さんに作ってもらうことができます。その考え方、技法に触れ、ただ直接話すもよし、オリジナルの商品を相談することも可能な職人さんに出逢う旅にでてみませんか?

まずは、以下フォームよりお気軽にご相談・お問合せください。

ライター:高山 奈々

Editor's Note

編集後記

燕市は、新潟県のほぼ中央部に位置している人口約8万人の日本有数のモノづくりのまちです。特にスプーンやフォークの国内製産量では95%以上のシェアを誇っており、フライパンや鍋、包丁、金ザルやボウル、樹脂製しゃもじなど、あらゆるキッチンツールにおいて国内の主要産地となっています。鎚起銅器の素材は、新潟県の西蒲原郡弥彦村と長岡市との境界にある標高634m弥彦山から採られる良質な銅です。江戸時代から続く工房には、壊れてしまった商品の修理を求めて全国から日々問い合わせがあるとのことです。時代を跨いで使い続けられる鎚起銅器は、持続可能な社会が求められている現代において、すでに江戸時代からあるサステナブルプロダクトのひとつです。
(CRAFT LETTER編集長:岡本幸樹)

ぜひ、新潟県燕市へ遊びに来てください!

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